マンション標準管理規約の変遷
マンション標準管理規約の変遷
日本のマンション管理は、昭和57年の初の標準管理規約策定以降、社会情勢や居住者ニーズの変化に応じて何度も改定を重ねてきました。各時代における主要な改定内容とその背景をご紹介いたします。
昭和57年(1982)
中高層共同住宅標準管理規約の策定
建設省(当時)が作成した最初の標準モデルです。それまで独自運用でトラブルが多発していた管理規約に、全国統一の指針が示されました。
基本的な権利義務の定義
- 区分所有権と敷地利用権の関係性を整理し、管理組合の業務範囲を明記
管理費等の負担
- 共有持分の割合(専有面積割合)に応じて負担する原則を確立
専有部分と共用部分の区分
- 天井・床・壁の境界は「上塗り説」を採用することを明示
平成9年(1997)
マンション標準管理規約へ名称変更
全面的に見直しが行われ、実務に即した規定が整備されました。「単棟型」だけでなく「団地型」も意識され始めた時代です。
窓ガラス・玄関扉の扱い(第7条)
- 窓枠、窓ガラス、玄関扉は「共用部分」と明確化
- 錠や内側塗装の管理責任は区分所有者にあるとする「専用使用権」の整理
駐車場の使用(第15条)
- 駐車場使用料は管理費とは別にし、修繕積立金として積み立てる考え方を導入
リフォーム制限(第17条)
- フローリング化等は騒音防止のため、理事長の承認事項とする手続きを整備
平成16年(2004)
3つの類型化と滞納対策
「単棟型」「団地型」「複合用途型」に分冊化され、多様化に対応しました。管理費滞納問題への対応も強化されています。
未納管理費等の請求(第60条)
- 法的措置をとる際の決議要件を整備し、違約金としての遅延損害金請求を明記
ペット飼育のルール化(第18条)
- 「認める場合」と「禁止する場合」の規定例を提示し、曖昧さを排除
専門委員会の設置(第55条)
- 大規模修繕委員会などの「専門委員会」を設置できる規定を追加
平成23年(2011)
東日本大震災・暴排条例への対応
震災の教訓や暴力団排除の動きを受けた改定です。災害時の迅速な対応とコミュニティの安全性が重視されました。
役員の資格要件の緩和(第35条)
- 居住要件を撤廃(現に居住→組合員であれば可)し、外部オーナーも役員就任可能に
暴力団排除条項の導入(第36条の2)
- 役員の欠格事由に「暴力団員」を追加
- 暴力団員への賃貸禁止、契約解除規定を整備
災害時の緊急対応権限(第21条)
- 総会決議を待たずに理事長が保存行為を行える権限を明記
平成28年(2016)
コミュニティ条項削除と第三者管理
外部専門家の活用と、管理費使途の厳格化が大きなテーマとなりました。
コミュニティ条項の削除(第27条)
- 管理費と自治会費の峻別のため、「地域コミュニティ」に関する文言を削除
外部専門家の役員就任(第35条他)
- 理事長や監事にマンション管理士等の第三者を選任可能と明記
- 利益相反取引の排除規定を追加
議決権割合・調査決議
- 価値割合(階数・眺望)を考慮した議決権設定の可能性を示唆
- 建替え調査費用は普通決議で支出可能と明確化
平成29年(2017)
民泊新法への対応
住宅宿泊事業法(民泊新法)の施行に伴う、緊急かつピンポイントな改定です。
専有部分の用途・民泊の可否(第12条)
- 「民泊を可能とする」か「禁止する」か、いずれかを必ず規約に明記するよう指導
令和3年・6年
IT化と現代的課題への対応
コロナ禍を経たデジタル対応、EV普及などの最新の生活様式への対応が進められました。
IT化と脱ハンコ(令和3年)
- WEB会議システムによる集会開催を条文化
- 議事録の押印廃止、電磁的方法による議決権行使を標準化
EV・置き配対応(令和6年)
- EV充電設備設置の普通決議化
- 共用部分への置き配許容
- 所在不明者対応の立入り権限強化
